更新日:2025年6月27日
目次
防災訓練は、形式的な作業ではなく、命を守るために必要な体験型の備えです。災害時には、状況を判断する力や判断したうえで素早く行動に移すことが求められます。
本記事では、地震・火災・水害を想定した防災訓練のアイデアや災害時の応急救護・ツールを使った防災訓練の企画アイデアを紹介します。
以下では、火災を想定した防災訓練を5選紹介します。
119番通報訓練は、火災時に必要な情報を的確に伝える力を養う防災訓練です。通報者役が訓練担当者と模擬的に通話を行い、下記のことを正確に伝える練習を行います。
実施の際は実際の通報と混同されないよう、電話は使わず対面で電話をもして会話に留めましょう。
参考:東京消防庁|やってみよう!防災訓練〜119番通報のしかた〜
初期消火訓練は、火災発生直後の対応力を身につけるための実践的な訓練です。訓練用消火具やスタンドパイプ(消火栓に差し込みホースと管そうを結合することで、毎分100L以上の放水ができる消火用資器材)を使い、火元に見立てた的に向けて噴射する練習を行います。消火栓や排水栓を使う場合は、消防職員の立ち会いが必要です。実施が決まったら下記もあわせて、管轄の消防署に確認しましょう。
エレベーターに閉じ込められた場合の対応訓練では、火災時や停電時にエレベーター内に閉じ込められた際の対応を学びます。実際のエレベーターは使用せず、会議室などにエレベーターを模した空間を設け、非常ボタンの押し方や通報内容、安否確認の手順をロールプレイ形式で体験します。
人数別に密室内での圧迫感を体感できたり、状況把握や意見交換がスムーズに行えたりするため、5〜10人程度でグループを分けての実施が効果的です。
特殊環境での火災対応訓練では、地下・倉庫・厨房など火災リスクが高く、逃げるのが困難と考えられる空間での火災を想定し、避難や初期対応を学びます。実際の施設や類似した部屋を使い、煙の充満による視界不良、複雑な動線を想定して進行します。
消火器の設置場所や非常口の確認も含め、実地での訓練が効果的です。実施する際は、、いつでもフォローできるようにスタッフを配置しましょう。
取手の温度確認訓練は、火災時に安全な避難経路を選択するための感覚的な判断力を養う訓練です。ヒーターや温パッドで加熱した取手に触れ、開けるべきかを判断します。やけど防止のため高温にしすぎず、事前に安全な温度設定を共有しスタッフで管理しましょう。施設内の廊下や教室などで開催可能です。
施設内の無言避難訓練は、煙や騒音の中でも落ち着いて行動する力を養う訓練です。火災を想定して煙を吸い込まないよう会話を禁止し、ジェスチャーや避難誘導標識を頼りに避難することを学び、指示の伝え方や受け取り方、状況を判断しパニックを抑える制御力を身につけます。
保育園や高齢者施設など、声かけが難しい場面を想定した実施例もあります。実施する際は、周囲への誤解を防ぐため訓練中である旨の掲示も必要です。
ドアの開閉判断訓練は、火災時に安全な避難経路を見極める判断力を養う訓練です。複数のドアのうち、開けると煙が充満している扉と、安全な避難ルートの扉を設定します。参加者は、煙が出ていないか変な音がしないかなど扉の状況を判断して選びながら避難します。
視界を一部遮る、温度確認の演出を加えるなどの工夫をするとより良いでしょう。実施の際は、誤って実際の非常扉や施錠扉を開けないよう指導が必要です。
以下では、水害を想定した防災訓練のアイデアを5選紹介します。
簡易土のう設置訓練は、水害時に室内が浸水しないための初動対応を身につける訓練です。水を入れたゴミ袋を段ボールで補強する簡易土のうを素早く作って出入口に設置し、浸水を防ぐ方法を学びます。
土砂不要で水を含むと膨らむ吸水式簡易土のうといった市販の防災グッズを紹介したり、使い方を練習したりするのも良いでしょう。実施の際は設置手順や重さ・水漏れを確認し、誤使用を防ぐ指導を徹底することが必要です。
浸水想定区域からの避難訓練は、実際のハザードマップに基づき、浸水リスクのある地域から高台や避難所へ徒歩で移動する訓練です。避難ルート上の迂回路や用水路・坂道などの危険箇所を確認しながら進むことで、実効性のある避難行動を身につけます。
実施する際は地域住民参加型で10〜30人程度のグループを構成し行うと、見守りや声掛けの練習、顔見知りになるきっかけにもなるでしょう。車移動ではなく、歩いて避難できる経路を事前に確認しておきましょう。
冠水時の見えない危険対応訓練は、冠水時に起こり得るマンホール転落などのリスクを想定し、危険予知の力を養う訓練です。実際の落下体験は行わず、蓋が外れたマンホールを模した場所に目印を設け、足元確認の仕方やマンホールの蓋が外れていた場合の周囲の状況の特徴を学びます。
また、歩行中の視線の置き方や声かけの重要性も共有すると良いでしょう。
施設内の垂直避難訓練は、1階の浸水を想定し、2階以上へ安全に避難する行動を確認する訓練です。誰が声かけを行い、誰を誘導し、どの部屋へ避難するかを役割分担しながら実践します。高齢者や子どもを含む施設では、階段の安全確保や誘導者の配置が特に重要になります。
実施する際は、荷物や転倒リスクのある物の撤去も徹底しましょう。
SNS・行政情報を用いた避難判断の訓練は、実際の降雨データや避難指示を模擬的に提示し、どの段階で避難を開始すべきかを判断する力を養います。スクリーンや配布資料で情報を段階的に提示し、グループで相談し、避難のタイミングを発表し合います。
1つの情報源だけを頼りにするのではなく、気象庁、防災アプリ、SNS投稿など多様な情報源を比較する実践も、誤情報を判断する力をつけるために有効でしょう。
以下では、地震を想定した防災訓練のアイデアを3選紹介します。
地震発生から5分間の行動シミュレーションは、発災直後の初動対応を時系列で体験し、迅速な判断力を養う訓練です。制限時間を設け、たとえば机の下への避難から始め、ラジオやSNSでの情報収集、消火・安否確認までなど、自身直後の行動をシミュレーションします。
10〜20人規模で実施すると、発災時に起こり得る情報が錯綜したり、通路が一時的に混雑したりする状況を疑似体験でき、より効果的でしょう。
避難ルートの障害物体験訓練は、地震による家具の転倒や物が散乱することを想定し、安全な避難行動を練習する訓練です。廊下や教室に段ボールや倒れた什器を配置し、狭い通路や障害物をまたいだりくぐったりしながら避難する練習を行います。
転倒やけがを防ぐため、障害物は柔らかい素材を使ったり、マットを設置したりと、事前に安全を確保しましょう。学校や福祉施設などで実施例があり、実践的な意識づけに適しています。
階段を使った高層ビル避難訓練は、地震時のエレベーター停止を想定し、非常階段で安全に避難する方法を学ぶ訓練です。実際のオフィスビルで、避難開始の合図とともに階段を使って1階まで降下し、所要時間や疲労感も確認します。
転倒や接触事故を起こす可能性があるため、10〜15人ずつのグループに分け、下記のことを伝えて安全に実施しましょう。
ここからは、災害時に使える応急救護訓練のアイデアを7選紹介します。
AED使用訓練は、心停止時の応急救護の対応を学ぶ訓練です。会議室や体育館で、AED訓練用機器を使って人形相手に実地演習を行います。3~4名ずつのグループを組んで、全員がAEDの操作を体験します。実施する際は、下記の安全指導を徹底しましょう。
心肺蘇生訓練は、心停止時に命を繋ぐ基本動作を学ぶ訓練です。マネキンとAED訓練用機器を使って、正しい手順や力加減のフィードバックを徹底しましょう。日本赤十字社や消防署から講師を呼んで開催でき、参加人数制限が決まっていることが多いので確認が必要です。
参考:日本赤十字社|講習会を依頼したい(指導員派遣の申し込み)
止血訓練は、包帯や布で圧迫止血を実践し、圧迫位置・強さ・固定方法を確認する応急救護訓練です。参加者はマネキンや模擬出血部位に対し、下記の流れを実践します。
感染防止のため手袋の着用や衛生管理を徹底して伝え、圧迫の強さが適切かを講師がフィードバックします。
参考:日本赤十字社|多量の出血-止血法-|講習の内容について
参考:東京消防庁<電子学習室><防火防災訓練ポータルサイト>
骨折・捻挫の応急処置訓練は、基本を押さえながら、身近なものを用いて固定方法を実践的に学ぶ訓練です。骨折・捻挫した時の安静・冷却・圧迫・挙上の基本処置に加えて、段ボール・新聞紙・傘などでそえ木を作り、患部を包帯や布でしっかり固定します。
手足に痛みを感じる状態でないか確認しつつ、血流を阻害しない力加減を学びます。
火傷の応急処置訓練では、熱傷の程度に合わせた正しい冷却や包帯のあて方などを学びます。訓練では、熱傷の程度を把握し患部の状態を見極めるための基礎知識を伝えたうえで、患部を想定した箇所を流水または冷却水で冷やし、その後水を含ませた清潔な布で覆い冷却するまでの手順を訓練します。
布からの細菌感染や冷却による低体温についても触れることで、非常時でも冷却時間や衛生管理を意識するように伝えると良いでしょう。
意識確認と回復体位への誘導訓練は、倒れている人に声をかけ、反応を確かめたうえで必要に応じて安全な体勢へ移す訓練です。指導者から下記の流れを学びます。
マネキンを用いたり、ペアを組んで互いにロールプレイを実施したりして、相手の負担を抑える声かけや体位移動時の安全配慮を実践します。
気道の異物除去訓練は、喉に異物が詰まった際に命を守るための応急救護訓練です。傷病者の頭を可能な限り低くし、胸を片手で支えながら、もう一方の手で肩甲骨の間を叩く方法や傷病者の後ろから両腕を回し、上腹部を圧迫する異物除去の方法を練習します。
反応のない場合を想定した心肺蘇生への移行も確認できると充実した内容になります。実施の際は人形相手に行い、安全に配慮しましょう。また、補助的に目や鼻の異物除去対応として、洗眼の方法や鼻出血時の圧迫などを紹介することで異物除去の対応を網羅的に訓練できます。
ここからは、あらゆる状況を想定した防災訓練のアイデアを5選紹介します。
帰宅困難対策訓練は、大規模災害で交通麻痺や道路が通行困難になった際に、避難するのか、今いる施設で待機するのかという判断を下す力を養う訓練です。
ハザードマップを参照して、施設周辺から高台・避難所へのルートを実際に歩き、迂回路や危険な場所を確認しながら、避難・待機をグループで相談します。組織単位で公園や駅周辺など、普段使っているルートに近い場所で行うと自分ごととして捉えやすくなるでしょう。
安否確認訓練では、災害時に屋外の集合場所で班ごとに点呼を行い、迅速に安否を確認・報告し、人員の把握と次にすべき行動の判断につなげます。事前に班と集合場所、避難手順を定め、避難終了後に点呼を取る形式です。
点呼で全員が声を出すと混乱が起こるため、静かな合図や声かけルールを設定し、落ち着いて確実に確認できるようにしましょう。
内閣府では、女性や乳幼児が使うスペースについては区域を分ける必要性が示されているものの、個人スペースの確保は自治体ごとの取り組みに委ねられているのが現状です。そのため避難所訓練では、持ち物の管理方法や周囲の人との適切な距離の取り方を学べると良いでしょう。
限られたスペースの中で貴重品を管理する方法を学んだり、自らのパーソナルスペースを確保するために他者との関わり方をグループで練習したりします。10〜30人規模で、体育館や地区センターなど屋内広場で開催することで、より実際の避難所に近い状況で訓練することが可能になるでしょう。
参考:内閣府防災情報|避難所の生活環境対策全般(ガイドライン・指針等)
暗所避難訓練は、停電時や夜間にも安全に避難する方法を学ぶ訓練です。職員が暗闇の中で非常灯以外を消し、参加者は懐中電灯や携帯灯のみで廊下や避難出口まで移動します。障害物の確認方法や歩き方、声かけルールも含め、目的地到達後の点呼まで実施しましょう。
情報連絡訓練は、通信手段が途絶したり、複数あって混乱したりする中で必要な情報を収集し、正しく伝える力を鍛える訓練です。訓練では、防災本部役と避難者役の2チームに分かれ、模擬的な災害シナリオを体験します。
班ごとに無線・拡声器・手書きメモなどを使い、被害状況や避難者数などを防災本部役に報告・共有します。
参考:板橋区危機管理室住民防災支援課|防災訓練「訓練メニュー」|3実技訓練|①情報連絡訓練
以下では、装置やツールを利用した体験型の防災訓練のアイデアを3選紹介します。
火災の煙体験訓練では、安全な煙を使用した煙体験ハウスで、火災時の視界不良と煙の怖さをリアルに体感します。訓練では、煙を吸い込まないように布で口元を覆いながら低姿勢で移動し、煙が充満した空間での正しい避難行動を習得します。
実施の際は、機器の電源・煙漏れの確認を怠らず、体調不良者が出ないように安全配慮を怠らないようにしましょう。
参考:東京消防庁|電子学習室|やってみよう!防災訓練〜避難のしかた〜|煙の特性について
地震体験車訓練は、地震の揺れを体験できる車を用い、震度5強~7の揺れを実地体験することで、地震発生時の行動を体感的に学ぶ訓練です。訓練中は家具転倒防止・姿勢維持など具体的な動作を意識し、体調不良者に注意を払いましょう。
参考:東京消防庁|消防の紹介|車両・装備・特殊な部隊|防災普及者|超震車
支援が必要な状況を理解する訓練は、視界や身体機能が制限された状態での避難を体験し、要配慮者への配慮や支援のあり方を学ぶプログラムです。
たとえばアイマスクやゴーグルを着用して視界を制限したり、またはタオルやおもりで手足の自由を奪ったりした状態で、狭い通路や段差を避けながら安全に移動する訓練を行います。支援が必要な状況を体感し、非常時に必要な支援を自ら考えられるようにすることが目的です。
本記事では、災害別・状況別・応急救護・ツールを活用した体験型などの観点から防災訓練のアイデアを30選紹介しました。災害時に求められる行動や判断力は、事前の訓練で大きく差が出ます。規模や参加者に応じた訓練を企画し、地域や職場の防災力向上にぜひお役立てください。