更新日:2025年6月17日
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「ハイブリッドイベント」という言葉を耳にする機会が増えたものの、「具体的にどのようなイベントなのか」「オンラインイベントとは何が違うのか」と気になっている方も多いでしょう。また、会社のイベント担当者の方であれば、「自社でも活用できるのか」「開催するメリットや、逆に注意すべき点には何があるのか」といった、より実践的な情報を求めているかもしれません。
本記事では、ハイブリッドイベントの概要から、具体的な活用シーン、開催するメリット・デメリット、そして成功に導くための開催手順や注意点まで、網羅的に解説します。
ハイブリッドイベントとは、会場に参加者を招く「リアルイベント」と、インターネットを通じてライブ配信を行う「オンラインイベント」を同時に開催するイベント形式のことです。
参加者は自身の都合に合わせて、会場で参加するか、あるいは場所を選ばずに自宅やオフィスなどから気軽に参加するかを自由に選択できます。また、主催者にとっては、リアルイベントの持つ熱量や没入感と、オンラインイベントの持つ拡散力や利便性という、双方の長所を最大限に活かせる開催形式と言えるでしょう。
ハイブリッドイベントは、その柔軟な形式から、さまざまな場面で活用されています。ここでは、代表的な4つの活用シーンを、それぞれの目的や期待される効果とともに紹介します。
シーン | 目的・期待効果 | ハイブリッド化のポイント |
セミナー・展示会 |
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会場でデモ体験を提供しつつ、オンライン参加者にも同時に説明を実施する |
会社説明会 |
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地方在住・留学中の学生がオンラインで参加できる環境を整備する |
社員総会・キックオフ |
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メイン会場と各拠点を接続し、質疑応答や議論を実施する |
株主総会 |
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遠隔地の株主にも議決権行使と質問機会を提供する |
製品やサービスの魅力を伝え、見込み客を獲得することを目的とするセミナーや展示会は、ハイブリッドイベントと非常に相性がよい活用シーンのひとつです。
リアル会場では、製品のデモンストレーションを間近で見てもらったり、営業担当者が来場者の状況を直接ヒアリングして関係性を築いたりすることが可能です。同時に、オンライン配信を行うことで、遠方で来場できない、あるいは移動の費用や時間をかけたくない層にもアプローチでき、見込み客獲得の機会を最大化できます。
開催後には、オンライン参加者の視聴データから関心の高いテーマを分析し、個々の顧客に合わせた情報提供を行うといった、データに基づいたマーケティング活動にもつなげられます。
会社説明会をハイブリッド化すれば、地方在住の学生や留学中の学生など、遠方に住む学生も気軽に参加でき、母集団の形成に大きく役立ちます。リアル会場で会社の雰囲気を肌で感じてもらいつつ、オンライン参加者からの質問にも同時に答えることで、会社への理解と関心を深めてもらえるでしょう。
特に、優秀な人材を全国から、あるいは世界中から集めたい会社にとっては、ハイブリッド形式による会社説明会は不可欠な手法となりつつあります。
社員の一体感を醸成し、会社の方針を共有する社員総会やキックオフイベントは、会社の成長に欠かせません。しかし、多拠点に事業所を持つ会社や、リモートワークが浸透した会社では、全社員を一か所に集めるのは容易ではありません。
ハイブリッド形式を導入すれば、メイン会場の熱気をオンラインで全拠点に届け、物理的な距離を超えて会社の一体感を高めることが可能です。メイン会場と各拠点をつなぎながら、質疑応答や議論を行えば、オンライン参加者の当事者意識も高まります。
株主との対話の場である株主総会も、ハイブリッド化が進んでいる領域です。会社の透明性や信頼性を高め、投資家との良好な関係を築く上で、ハイブリッドイベントは一般的な手法となりつつあります。
株主総会をハイブリッド形式で開催することにより、遠方に住む株主や、当日都合がつかない株主にも参加・議決権行使の機会を提供することが可能です。質疑応答をオンラインでも受け付けることで、より多くの株主の声を経営に反映させる姿勢を示すことにもつながります。
オンライン形式での利便性と、リアル会場の熱気を両立できるハイブリッドイベントには、従来の開催形式にはない多くのメリットがあります。本章では、ハイブリッドイベントを導入することで得られるメリットを、具体的な活用イメージと共に詳しく解説します。
ハイブリッドイベントが持つ最大のメリットは、圧倒的な集客力です。リアル会場のみのイベントでは、参加者は会場近郊の居住者に限定される傾向にありました。しかし、オンライン参加という選択肢を用意することで、地理的な制約がなくなります。
以下のような、これまでアプローチが難しかった潜在層にも参加機会を提供することが可能です。
実際に、リアル会場の収容人数を大幅に超える参加者を集めたカンファレンスやセミナーの事例も珍しくありません。
多様な地域や背景を持つ人々が集うことで、議論が活性化したり、新たなコミュニティが生まれたりといった、議論の質の向上にもつながる、非常に価値の高いメリットと言えるでしょう。
費用と労力をかけて実施したイベントが、開催当日だけの一過性のものに終わってしまうのは非常にもったいないことです。ハイブリッドイベントでは、配信した映像をそのまま録画・保存できるため、その映像を資産として二次活用できます。
具体的な活用例としては、以下のようなものが挙げられます。
当日参加できなかった方や、もう一度内容を確認したい方向けに、期間限定で録画映像を公開する
イベントの要約動画を作成してSNSで発信したり、セミナーの内容をブログ記事やホワイトペーパーにまとめたりして、見込み客の獲得につなげる
社内向けのイベントであれば、新入社員の研修や知識共有の教材として活用する
そのように、ハイブリッドイベントの映像を様々な形で再利用することで、イベント開催後も長期にわたってブランド価値の向上やビジネス機会の創出に役立てることが可能です。
イベント主催者にとって、台風や大雪などの悪天候、または感染症の流行といった不測の事態は、常に頭を悩ませる要因です。リアル開催のみの場合、そうした事態が発生すると、イベントの延期や中止の判断を迫られる場合も少なくありません。
ハイブリッドイベントは、そのような開催リスクに対する優れた対策となります。万が一、リアル会場での開催が困難になった場合でも、オンライン形式に切り替えることで、イベントの開催を中止せずに済みます。
イベントにかけた準備の手間が無駄にならないという主催者側のメリットはもちろん、参加者にとっても「申し込んだイベントが中止になるかもしれない」という不安を払拭し、参加申し込みのハードルを下げる効果も見込めます。
リアル開催ではアンケート調査などでしか把握できなかった参加者の反応を、詳細なデータとして取得・分析できる点も、ハイブリッドイベントの大きな強みです。
プラットフォーム上では、以下のような参加者のデータを収集できます。
収集できるデータの種類 | 概要 |
視聴データ | どのセッションが人気だったか、誰がどの程度の時間視聴したか |
行動データ | どの資料がダウンロードされたか、どのURLがクリックされたか |
反応データ | チャットやQ&A機能でどのような発言があったか、アンケート調査でどのような回答があったか |
それらのデータを参加者の属性情報(部署、役職など)と掛け合わせることで、「誰が・何に・どの程度関心を示しているのか」を高い精度で可視化できます。感覚に頼りがちだったイベントの効果測定やフォローアップが、データに基づいたものへと進化します。
例えば、「セッションを最後まで視聴し、かつ関連資料をダウンロードした参加者」の一覧を作成し、後日その参加者に個別の情報提供を行う、といった対応も可能です。
多くのメリットがあるハイブリッドイベントですが、その一方で、リアルとオンラインの良いとこ取りであるがゆえの課題もあります。メリットだけに目を向けて導入すると、予期せぬ失敗を招く可能性があります。
ここでは、事前に知っておきたいデメリットについて解説します。
ハイブリッドイベントを開催する場合、リアルとオンラインの2種類のイベントを同時に運営する必要があります。運営にかかる業務負担は、単純計算でも従来のイベントの2倍以上になる可能性があります。
段階 | 発生する手間 |
コンテンツの検討 | 来場者とオンライン参加者の双方を満足させるコンテンツや進行を考えなければならない |
準備 | 会場の手配や、配信プラットフォームの選定、機材の準備などを並行して進める必要がある |
当日の運営 | 会場の受付・誘導スタッフと、配信管理・コメント監視などのスタッフが必要になる |
運営の負担を軽減するには、社内と外部の担当範囲を明確にし、委託可能な業務に関しては、実績豊富なイベント運営会社や配信業者に任せるのがおすすめです。
運営の業務負担と同様に、費用面でもリアルとオンラインの両方で必要になります。
イベントの種類 | 発生する費用の例 |
リアル |
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オンライン |
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リアルイベントのみ、あるいはオンラインイベントのみの場合と比べて、初期費用や運営費用が大きくなる傾向にあります。ただし、集客力の向上や映像の二次活用といったメリットを考慮すれば、費用対効果は必ずしも悪くありません。予算を検討する際は、必要となる費用を漏れなく洗い出し、投資対効果を総合的に判断しましょう。
オンライン配信を伴うハイブリッドイベントでは、通信環境や機材の不具合がイベントの成否を左右するリスクとなり得ます。
【オンライン配信で起こりうるトラブル例】
そうしたトラブルは、オンライン参加者の満足度を大きく損なう要因となります。対策としては、安定した有線LAN回線の確保や、信頼できる機材の選定、そして何よりも入念なリハーサルの実施が不可欠です。万一のトラブルに備え、代替機材の用意と、迅速に対応できるスタッフの配置も検討しましょう。
ハイブリッドイベントには、来場者に会場の熱気を感じてもらえるという魅力がある反面、その盛り上がりがオンライン参加者に疎外感を与えてしまうという課題もあります。来場者のみを対象とした話が多くなったり、オンライン参加者のコメントがなかなか拾われなかったりすると、オンライン参加者は「自分は歓迎されていない」と感じてしまい、途中で離脱してしまうでしょう。
それを防ぐためには、司会者が意識的にオンライン参加者に語りかけたり、オンライン参加者からの質問を積極的に取り上げたりすることが重要です。また、オンライン参加者同士が交流できるチャット機能や、会場とオンライン双方が参加できるアンケート・投票機能などを活用し、イベントへの主体的な参加を促す工夫も効果的です。
ハイブリッドイベントを成功させるためには、計画的に準備を進める必要があります。ここでは、イベントの目的決めから開催後のフォローアップまで、開催手順を7つの段階に分けて解説します。
この手順に沿って準備を進めることで、質の高いイベントを実現できるでしょう。
ハイブリッドイベントを開催する際は、まず「何のためにこのイベントを開催するのか」という目的と、「イベント終了時にどのような状態になっていれば成功か」というゴールを具体的に設定します。目的やゴールを明確にしないまま進めると、以降のすべての判断が曖昧になってしまいます。
例えば、「新製品の認知度を向上させ、1ヶ月以内に○○件の問い合わせを獲得する」「社員の相互理解を深め、次期経営方針への納得度を○○%以上にする」といったように、可能な限り定量的なゴールを設定しましょう。
目的とゴールが固まったら、リアル開催とオンライン配信のどちらに比重を置くか検討します。
開催形式 | 概要 |
リアル重視型 | 来場者を主なターゲットとする形式。オンライン配信は補助として活用する |
オンライン重視型 | オンライン参加者を主なターゲットとする形式。会場には少数の参加者を入れる |
リアル・オンライン対等型 | リアルとオンラインの双方の参加者が同等に楽しめるよう、コンテンツや体験を設計する形式 |
開催形式によって、必要な機材や人員、コンテンツの作り方が大きく変わってきます。イベントの目的やゴールに最もふさわしい形式を選びましょう。
次に、リアルイベントの会場と、オンライン配信のための配信プラットフォームを選定します。
会場を選ぶ際は、収容人数や立地に加えて、安定した高速インターネット回線が利用できるかを確認しましょう。また、配信プラットフォームを選ぶ際は、Q&A、アンケート、参加者管理など必要な機能と予算を照らし合わせて決めましょう。
会場とプラットフォームが決まったら、当日必要な機材と人員の確保を進めます。
概要 | |
機材 | カメラやマイク、スイッチャー、照明、モニター、配信用のPCなどを用意する。自社で用意できない場合は、レンタルや専門業者への依頼を検討する |
人員 | 司会者、登壇者、会場の運営スタッフ、配信オペレーター、オンライン配信のコメント監視スタッフなど、役割ごとに人員を確保し、責任者も明確にします |
WebサイトやSNS、メールマガジン、広告など、複数のチャネルで開催の告知を行います。この際、リアル参加とオンライン参加それぞれの魅力が伝わるように訴求します。申し込みフォームも、参加形式を選択できることがわかるように設計しましょう。
ハイブリッドイベントを開催する前に、リハーサルを行います。本番と全く同じ環境・機材・人員で一連の流れを通して、以下の項目を確認します。
リハーサルで発見した課題は、本番前までに対策を講じます。やりすぎなくらい徹底することで、本番の運営を円滑に進められます。
ハイブリッドイベントは、開催したら終わりではありません。参加してくれた方々への感謝の連絡はもちろん、次回のイベントやビジネスにつなげるためのフォローアップを行います。
【フォローアップの例】
フォローアップまで計画的に進めることで、ハイブリッドイベントの成果を最大化できます。
ハイブリッドイベントを成功させる上で注意すべきポイントを2つ紹介します。これまで説明した手順に加えて、これらの注意点を意識することで、参加者の満足度の高いイベントを実現できるでしょう。
オンライン参加者は、少しでも「つまらない」と感じると、すぐに他の作業を始めたり、画面を閉じたりする可能性があります。常に参加意識を喚起し、飽きさせないための双方向的な工夫を施しましょう。
機能 | 概要 |
チャット機能・Q&A機能 | 積極的にオンライン参加者にコメントを入力してもらう |
投票機能・アンケート機能 | こまめに活用してリアルタイムで結果を画面に共有する |
ブレイクアウトルーム | オンライン参加者だけが交流できる時間を設ける |
オンライン参加者を飽きさせないためには、一方的な情報提供ではなく、対話を意識したプログラムの設計が重要です。
オンライン参加者を飽きさせないための工夫に加えて、会場とオンライン配信の両方で一体感を演出することも重要です。
【一体感を演出するための施策例】
参加者全員が「同じイベントに参加している仲間」と感じられるような空間作りを目指しましょう。
本記事では、ハイブリッドイベントの概要から、具体的な活用シーン、開催するメリット・デメリット、開催手順と注意点まで、網羅的に解説してきました。
ハイブリッドイベントは、リアル形式とオンライン形式のメリットを組み合わせることで、これまでのイベント形式にはない価値を生み出せます。より多くの範囲から集客できる、収録した映像を後日活用できるというメリットがある一方で、運営が複雑化しやすく、費用もかさむという課題があることも覚えておきましょう。
ハイブリッドイベントを開催する際には、来場者とオンライン参加者の間で体験に差が生まれないように配慮し、全員が「参加してよかった」と感じられる一体感を生み出すことが欠かせません。技術的な準備はもちろんのこと、参加者目線に立ったプログラムの設計やコミュニケーションの工夫でハイブリッドイベントを成功させましょう。
ぜひ本記事でご紹介した手順や注意点を参考に、まずは小規模な社内イベントなどから、ハイブリッド形式の導入を検討してみてはいかがでしょうか。