更新日:2025年6月24日
年に一度の重要なイベントである、株主総会。総務・人事担当者の方の中には、初めて担当を任され、何から手をつければよいのか戸惑っている方もいるでしょう。
本記事では、株主総会の概要や種類、当日の流れ、準備、そして担当者として押さえておきたいポイントまで、網羅的に分かりやすく解説します。
株主総会とは、会社の重要な方針や経営に関わる大切な事項を、株主が集まって話し合い、決定する機会です。株式会社における最高の意思決定機関であり、株主は取締役の選任や決算の承認、定款の変更などの議題について意見を述べ、最終的な判断を下します。
ここからは、株主総会の開催義務や開催時期、開催場所という、株主総会の基本となる3つのポイントについて解説していきます。
会社法第296条第1項により、株式会社には毎年1回、定時株主総会を開催する義務があります。会社の規模や上場・非上場に関係なく、すべての株式会社が開催しなければなりません。
(株主総会の招集)
第二百九十六条 定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。
引用:e-GOV|会社法
株主総会の開催を怠った場合、会社法違反として、代表者などに100万円以下の過料が科される可能性があります(会社法第976条)。
(過料に処すべき行為)
第九百七十六条 発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、会計参与若しくはその職務を行うべき社員、監査役、執行役、会計監査人若しくはその職務を行うべき社員、清算人、清算人代理、持分会社の業務を執行する社員、民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役、執行役、清算人若しくは持分会社の業務を執行する社員の職務を代行する者、第九百六十条第一項第五号に規定する一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役若しくは代表執行役の職務を行うべき者、同条第二項第三号に規定する一時清算人若しくは代表清算人の職務を行うべき者、第九百六十七条第一項第三号に規定する一時会計監査人の職務を行うべき者、検査役、監督委員、調査委員、株主名簿管理人、社債原簿管理人、社債管理者、事務を承継する社債管理者、社債管理補助者、事務を承継する社債管理補助者、代表社債権者、決議執行者、外国会社の日本における代表者又は支配人は、次のいずれかに該当する場合には、百万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
引用:e-GOV|会社法
十八 第二百九十六条第一項の規定又は第三百七条第一項第一号(第三百二十五条において準用する場合を含む。)若しくは第三百五十九条第一項第一号の規定による裁判所の命令に違反して、株主総会を招集しなかったとき。
引用:e-GOV|会社法
株主総会のひとつである定時株主総会について、会社法第296条第1項で「毎事業年度の終了後、一定の時期に招集しなければならない」と定められています。
多くの会社では、定時株主総会を6月に開催するのが一般的です。その背景には以下の2つの理由が関係しています。
法人税の確定申告書は、原則として事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内に提出しなければなりません。しかし、定款で定めればこの期限を1ヶ月延長できるため、3月決算の場合は6月末が申告期限となります。その期限に合わせて、決算を承認する株主総会も6月に開催されることが多いです。
議決権を行使できる株主を確定させるための「基準日」を定款で定めることが可能です。多くの会社では、その基準日を3月31日としており、基準日から3ヶ月以内に株主総会を開催する必要があることから、6月に定時株主総会が開催されます。
株主総会の担当者には、自社の事業年度の終了日と定款の規定を確認し、適切な時期に開催することが求められます。
株主総会の開催場所について、会社法上の明確な制約はありません。ただし、定款で開催地が明記されている場合は、その場所で開催する必要があります。
定款に開催地が明記されていなくても、株主の住所からあまりにも遠いなど、株主の出席が困難な場所を指定した場合には、株主は訴えをもってその決議の取り消しを請求することが可能です(会社法第831条第1項第1号)。
(株主総会等の決議の取消しの訴え)
第八百三十一条 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。
引用:e-GOV|会社法
株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
引用:e-GOV|会社法
開催場所の選定にあたっては、まず自社の定款にどのような記載があるかを確認し、その内容に沿った形で適切な会場を選びましょう。
なお、近年は開催形式が多様化しており、物理的な会場を設けずに実施する「バーチャルオンリー株主総会」や、会場開催とオンライン参加を組み合わせた「ハイブリッド型バーチャル株主総会」も開催可能となっています。
株主総会は、開催される時期と目的の観点から、定時株主総会と臨時株主総会の2つに分けられます。以下では、両者の特徴と違いについて詳しく解説します。
定時株主総会とは、毎事業年度の終了後に定時的に開催される株主総会のことです。前述の通り、すべての株式会社は年に1回、開催することが義務付けられています。
定時株主総会では、主に以下の議題について決議が行われます。
臨時株主総会とは、必要に応じて臨時で開催される株主総会のことです。毎年開催する義務はなく、次の定時株主総会まで待てない緊急性の高い議案が出てきた際に、取締役会などの決定に基づき開催されます。
臨時株主総会が開催される代表的なケースとして、以下のものが挙げられます。
これまで定時株主総会や臨時株主総会の代表的な決議事項について触れましたが、実際の決議事項の範囲は、取締役会を設置しているかどうかによって大きく異なります。
取締役会設置会社で決議できる事項 | 取締役会非設置会社で決議できる事項 |
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取締役会を設置している会社では、取締役会が業務執行に関する意思決定を行うため、株主総会で決議できる事項は、法律や定款で定められた事項に限定されます。
【株主総会で決議できる事項の例】
担当者は、会社法と自社の定款の両方を確認し、今回の株主総会で決議すべき事項を正確に選定しなければなりません。
取締役会を設置していない会社には業務執行の意思決定を行う取締役会がなく、株主総会は株式会社に関するあらゆる事項について決議をすることが可能です。日々の細かな業務執行の決定から、会社の根幹に関わる重要な事項まで、すべてが株主総会の決議事項となります。
株主総会で議案を可決するには、一定数以上の株主の賛成を得る必要があります。議案の可決に必要な賛成数は議案の重要度によって異なり、普通決議と特別決議、特殊決議の3つに分類されます。それぞれの決議要件を正しく理解していなければ、決議が無効になってしまう可能性もあるため、担当者は必ず押さえておきましょう。
普通決議は、株主総会における最も基本的な決議方法です。役員の選任や、剰余金の配当、役員報酬の決定など、後述の特別決議や特殊決議に該当しない議案が、普通決議によって決議されます。議決権の過半数を持つ株主が出席し、その出席株主の過半数が賛成すれば可決となる、最もハードルの低い決議方法です。
【普通決議の要件】
定足数 | 議決権を行使できる株主のうち、議決権の過半数を有する株主が出席する |
決議要件 | 出席した株主の議決権の過半数の賛成がある |
なお、定足数については、定款で定めることで引き下げることも可能です。
特別決議は、定款の変更や合併、会社の解散など、株主の利害に特に重大な影響を及ぼす事項を決議する際に必要となる決議方法です。普通決議と同じく議決権の過半数を持つ株主の出席が必要ですが、決議には出席した株主の3分の2以上の賛成が求められる点で異なります。
【特別決議の要件】
定足数 | 議決権を行使できる株主のうち、議決権の過半数を有する株主が出席する |
決議要件 | 出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成がある |
普通決議と同様、定足数は定款で緩和が可能で、3分の1以上に変更できます。
特殊決議は、特別決議よりもさらに厳格な要件が課される、決議方法です。株主全体の利益に極めて重大な影響を与える、ごく限られた事項にのみ用いられます。
特殊決議で決議する事項には、以下のものが挙げられます。
決議する内容によって、決議要件は異なります。
【すべての株式を譲渡制限株式とする定款変更、吸収合併契約などの承認、新設合併契約などの承認における要件】
定足数 | なし |
決議要件 | 議決権を行使できる株主の半数以上かつ当該株主の議決権の3分の2以上の賛成がある |
【株主によって異なる権利内容を設定する場合の定款変更における要件】
定足数 | なし |
決議要件 | 総株主の半数以上かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成がある |
株主総会当日の進行が円滑に進むかどうかは、事前の準備とリハーサルにかかっています。ここでは、一般的な株主総会がどのような流れで進むのかを、5つの段階に分けて解説します。
株主総会の当日、まず会場の設営を行います。株主が円滑に来場し、快適に総会に参加できるよう、細部まで配慮した設営が求められます。
【主な設営項目】
特に、受付は最初に株主と接する重要な場所です。丁寧かつ迅速に対応するために、十分な人員を確保しましょう。車椅子利用者への配慮や、高齢者にも分かりやすい案内表示の設置も忘れずに行うこともポイントです。
定刻になったら、議長(通常は代表取締役)が開会を宣言し、株主総会が始まります。議長に関する定めはありませんが、代表取締役を議長に任命することが一般的です。
【開会宣言の例】
定刻になりましたので、ただいまより第○期定時株主総会を開催いたします。本日は、お忙しい中ご出席いただき、誠にありがとうございます。私は、本日の議長を務めさせていただきます代表取締役社長の○○でございます。それでは、議事に入らせていただく前に、本総会の成立についてご報告いたします。
また、本総会が適法に成立していることを株主に示すため、現在の出席株主数と、その議決権の総数を報告します。これにより、決議に必要な定足数を満たしていることを明確にします。
【株主数・議決権の数の発表の例】
本日現在の株主名簿に記載されております株主様の総数は○名、発行済株式総数は○株、議決権の総数は○個でございます。本日ご出席の株主様は○名、議決権の個数は○個でございます。また、書面およびインターネットによる事前の議決権行使をいただいた株主様は○名、議決権の個数は○個でございます。これらを合計いたしますと、出席株主様は○名、議決権の個数は○個となり、会社法で定められた定足数を満たしておりますので、本総会は適法に成立いたしておりますことをご報告申し上げます。
議長または担当の取締役が、事業年度の事業内容について報告を行います。これは報告事項と呼ばれ、決議を要する事項とは異なります。
【報告内容の例】
事業報告書や計算書類などの内容を、スライドなどを用いて視覚的に分かりやすく説明します。
報告事項が終わると、決議事項の審議に移ります。議長が各議案を上程し、内容を説明した後、株主からの質疑応答を受け付けます。質疑応答では、事前に準備した想定問答集を活用し、的確で分かりやすい回答を心がけましょう。
質疑への応答が終了したら、議長が採決を宣言し、株主は拍手などで議決権を行使します。すべての議案の採決が完了したら、議長が閉会を宣言し、株主総会は終了です。
【閉会宣言の例】
以上をもちまして、第○期定時株主総会を閉会とさせていただきます。本日は誠にありがとうございました。
株主総会が終了したら、速やかに会場の片付けを行います。
【片付け作業の例】
片付けでは、株主の忘れ物がないかを確認し、レンタルした機材や備品を返却します。また、株主総会の反省会を開き、次回の総会に向けた改善点などを記録しておくことも重要です。
株主総会の成功には、当日までの準備も極めて重要です。ここでは、株主総会の招集決定から、開催後の事後処理まで、数ヶ月にわたる手続きの全体像を6つ段階に分けて解説します。
株主総会を開催するには、まず会社法に基づいて招集を正式に決定する必要があります。
取締役会設置会社では、取締役会で招集を決議し、代表取締役が実際の招集手続きを行います。一方、取締役会非設置会社では、取締役が直接招集を決定できますが、複数の取締役がいる場合は過半数による決定が必要です。
招集の決定では、株主総会の日時、場所、議題などが定められます。
招集が決定したら、株主に対して招集通知を発送します。この通知には、開催日時、場所、議題などを記載します。会社法299条で発送期限が定められているため、厳守しなければなりません。
招集通知の発送の期限 | |
公開会社 | 株主総会の2週間前まで |
非公開会社 | 株主総会の1週間前まで(定款で短縮も可能) |
発送が遅れると、総会の決議が取り消される可能性があるため、スケジュール管理を徹底しましょう。
(株主総会の招集の通知)
第二百九十九条 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(前条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、一週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。
引用:e-GOV|会社法
株主総会の質疑応答を円滑に進めるため、事前に想定問答集を作成します。想定問答集は想定される質問と回答をまとめたもので、主に以下のような質問を記載します。
株主からの質問を予測し、各担当役員や関連部署と連携しながら、分かりやすく的確な回答を準備しておきます。想定問答集の質が、当日の会社の信頼性を左右すると言っても過言ではありません。
株主総会の進行に問題がないか確認するために、当日までにリハーサルを実施します。役員による事業報告や議案説明の練習、質疑応答のシミュレーション、音響・映像設備の動作確認などは、複数回にわたって実施することがおすすめです。
リハーサルを通じて、進行上の問題点や時間配分、スタッフ間の連携などを確認・改善していきます。
これまでの入念な準備を経て、株主総会当日を迎えます。当日は、スタッフ全員が各自の役割を確実にこなし、不測の事態にも落ち着いて対応することを目指して、万全の体制で臨みます。
【当日の流れの振り返り】
株主総会が終了した後は、総会の内容を記録した株主総会議事録を作成します。会社法第318条では、本店に10年間、支店にその写しを5年間備え置かなければならないと定められています。
(議事録)
第三百十八条 株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。
株式会社は、株主総会の日から十年間、前項の議事録をその本店に備え置かなければならない。
株式会社は、株主総会の日から五年間、第一項の議事録の写しをその支店に備え置かなければならない。
引用:e-GOV|会社法
また、定時株主総会の終結後は、遅滞なく決算公告を行わなければなりません(会社法第440条)。貸借対照表(大会社は損益計算書も含む)を、定款で定めた方法により官報、日刊新聞紙、電子公告のいずれかの方法で公告します。
(計算書類の公告)
第四百四十条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。
引用:e-GOV|会社法
その他にも法的義務はないものの、株主への丁寧な報告として、総会での決議内容をまとめた決議通知書を作成・発送するのが一般的です。それらの事後処理を完了して、株主総会業務が完結したと言えます。
株主総会でお土産を渡す法的な義務はありませんが、かつては出席した株主へのお土産が恒例となっている会社も多くありました。しかし近年では、お土産を廃止する会社が増加傾向にあります。
お土産が廃止されている主な理由は、以下の通りです。
招集通知でお土産廃止を明記する企業も見られます。お土産の有無は、各社の経営判断によりますが、現在は廃止が主流であることを知っておくとよいでしょう。
株主総会を成功に導くために、担当者として意識しておくべき2つの重要なポイントをご紹介します。
株主総会の運営には、招集決定から事後処理まで、やるべきことが多く、さらにはその多くに法的な期限や要件が定められています。特に、招集通知の作成・印刷・発送、事業報告書や計算書類の準備、想定問答集の作成などは、想定以上に時間がかかるため、余裕を持って準備計画を立てましょう。行き当たりばったりで準備を行うと、どこかで綻びが生じ、株主の信頼を損ねてしまう恐れがあります。
近年の社会情勢の変化に伴い、従来のリアル開催に加えて、バーチャルオンリー形式やハイブリッド形式という新しい開催形式が普及しています。
開催形式 | 概要 |
バーチャルオンリー形式 | 物理的な会場を設けず、完全にオンライン上のみで実施する形式 |
ハイブリッド形式 | リアル会場とオンライン配信を併用する形式 |
オンライン開催には、遠方の株主や移動が困難な株主も参加しやすくなり、会社の開かれた姿勢を示すことができる点が大きなメリットです。一方、配信トラブルのリスクや、なりすまし防止のセキュリティ対策など、新たな課題も生まれます。しかし、より多くの株主に参加してもらうためにもオンライン開催を検討することがおすすめです。
本記事では、株主総会の概要や種類から、決議できる事項、当日の流れ、そして開催に至るまでの準備とポイントについて、網羅的に解説しました。
株主総会の運営は、会社法に則った厳格な手続きが求められる一方で、株主との円滑なコミュニケーションを図るための実務的な知識も必要とされる、責任の重い業務です。初めて担当される方にとっては、その複雑さに戸惑うことも多いでしょう。
しかし、計画的かつ入念に準備に行うことで不測の事態にも対応できて、株主総会を成功に導くことが可能です。一つひとつのやるべきことを着実にこなすことが、当日の円滑な進行と、株主からの信頼獲得につながります。
ぜひ本記事の内容を参考に、株主総会の準備を進めてください。