更新日:2025年7月1日
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訪日外国人観光客の数は年々回復傾向にあり、日本の観光業界は大きな転換期を迎えつつあります。以前は、ショッピングを目的とした「モノ消費」が主流でしたが、現在ではその土地ならではの体験に価値を見出す「コト消費」への関心が高まっています。
こうした流れのなかで、訪日客に特別な思い出を提供する取り組みとして注目されているのが「インバウンドイベント」です。
本記事では、インバウンドイベントの概要や注目される背景、実施するメリット・デメリット、さらにおすすめの企画例までを網羅的に解説します。
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インバウンドイベントとは、日本を訪れる外国人観光客を対象に、日本文化や自然、食、技術などを体験してもらう催しのことを指します。観光地を巡るだけではなく、現地の人々と交流しながら、日本ならではの魅力に直接触れてもらうことが目的です。
具体的には、以下のような催しが挙げられます。
インバウンドイベントは、参加者に感動や学びを提供するだけにとどまらず、日本の魅力を広く発信できる貴重な機会でもあります。また、主催する会社や地域にとっては、収益の創出や地域活性化にもつながる重要な取り組みです。
近年、インバウンドイベントは、多くの会社や自治体から注目を集めています。その背景には、訪日外国人の「数」と「関心」の両面での変化が挙げられます。
イベントに興味を持つ可能性のある訪日客が増加していることは、インバウンドイベントが注目される理由のひとつです。
日本政府観光局(JNTO)が発表した「訪日外客数(2025 年 5 月推計値)」によると、2025年5月の訪日客数は約369万人にのぼり、5月として過去最高を記録しました。前年同月比では21.5%増加しており、インバウンド市場の回復が進んでいることがわかります。
特に韓国、中国、台湾、アメリカなど21の国と地域で過去最多を更新しており、日本への関心が世界的に高まっていることがうかがえます。
※参考:日本政府観光局(JNTO)|訪日外客数(2025年5月推計値)
訪日客の旅行の楽しみ方は、買い物中心の「モノ消費」から、現地での体験に価値を見出す「コト消費」へと変化しています。「モノ消費」が商品の所有を重視する行動である一方、「コト消費」は文化体験や人々との交流といった、その場でしかできない思い出作りを重視する行動です。
訪日客の需要が変化した背景として、日本の商品が海外からも購入しやすくなり、現地での「体験」に価値が見出されるようになったことが挙げられます。訪日リピーターの増加により、定番観光から一歩踏み込んだ文化体験を求める傾向も強まっています。さらに、SNSで映える体験を共有したいというニーズも、この流れを強力に後押ししました。
インバウンドイベントの実施には、参加費などの直接的な収益だけでなく、主催する会社や地域にとって長期的な価値を生むさまざまなメリットがあります。ここでは、インバウンドイベントを実施する主な4つのメリットを紹介します。
インバウンドイベントの大きな特徴は、参加者が体験した内容を自発的に発信してくれることです。印象に残った出来事や風景は、写真や動画とともにSNSや動画配信サイトに投稿され、多くの人に広まります。
こうしたリアルな声は、会社や自治体が制作する広告よりも信頼性が高く、共感を呼びやすい点が魅力です。訪日客の投稿をきっかけに、日本文化や地域の存在を初めて知る人も現れ、新たな旅行者の呼び込みにもつながります。
買い物で得られる満足感は一時的なものである一方、心を動かす体験や人との交流は、訪日客の記憶に長く残ります。イベントでの温かなやりとりを通じて、訪日客はその土地に親しみを抱くようになり、次の旅行で同じ地域を選ぶ動機となることが少なくありません。
たとえば、「あの人にもう一度会いたい」「もう一度あの体験をしたい」と感じた訪日客は、一度限りの観光客から、何度も足を運ぶリピーターへと変化します。
観光地にとってのリピーターの存在は、経済的な安定だけでなく、地域への信頼や愛着を育てる上でも非常に重要です。インバウンドイベントは、長期的なつながりを生むための有効な取り組みといえるでしょう。
イベント参加者は、会場だけでなく周辺の宿泊施設や飲食店、交通機関、お土産店などを利用するため、地域全体の消費が促進されます。さらに、イベントが地方で開催されることで、観光客がこれまで訪れる機会の少なかった地域へ足を運ぶきっかけにもなります。交流人口が増えることで、地域住民が自分たちの文化や産品の価値を再認識し、地域の誇りを取り戻すきっかけになるなど、経済的な側面以外でも活性化に貢献する点もメリットです。
インバウンドイベントは、国籍や言語、文化の壁を越えて人々が交流できる機会です。共通の体験を通じて、参加者同士や地元の人々との間に自然なコミュニケーションが生まれます。
訪日客にとっては、日本人のリアルな人柄や考え方に触れる貴重な機会であり、ガイドブックでは得られない深い学びにつながります。同時に、受け入れる側の日本人にとっても、海外の文化や価値観に触れられるため、相互理解が深まります。
訪日客との交流の積み重ねは、地域の国際化を後押しし、子どもたちが世界に目を向けるきっかけにもなるでしょう。
多くのメリットがある一方で、インバウンドイベントには事前に配慮すべき課題もあります。円滑な運営と満足度の高いインバウンドイベントを実現するために、課題を事前に把握し、必要な準備をしておきましょう。
旅行者は世界中から訪れるため、文化や宗教への配慮が必要です。特に食事面の配慮は重要で、イスラム教徒向けのハラルフードや、ベジタリアン・ヴィーガン対応、アレルギーへの対応などは欠かせません。
また、旅行者がイスラム教徒の場合は、お祈りの時間や礼拝スペースの確保なども求められる場合があります。
旅行者への配慮を怠ると、参加者に不快な思いをさせてしまい、イベント全体の満足度を下がってしまうため、文化や宗教には配慮しましょう。
イベントの説明や安全上の注意点、質疑応答など、参加者と円滑なコミュニケーションを取るためには、スタッフに一定の語学スキルが求められます。外国語の中でも特に英語は、必要になる場面が多いでしょう。
全てのスタッフが外国語を話せる必要はありませんが、少なくともリーダーや案内役には、最低限の意思疎通ができる語学力が必要です。翻訳アプリなども活用できますが、緊急時や細かなニュアンスを伝える際には、直接的に会話するほうが確実です。
インバウンドイベントが話題を集め、特定の地域に観光客が集中しすぎると、オーバーツーリズムが発生する可能性があります。オーバーツーリズムとは、交通渋滞やゴミ問題、騒音、マナー違反による地域住民の生活への悪影響、さらには自然環境の破壊といった問題を引き起こす現象のことです。
イベントを実施する際は、参加人数の上限設定や公共交通機関の利用促進、マナーに関する多言語での注意喚起など、持続可能な観光を意識した取り組みが求められます。
訪日外国人に向けて魅力的な体験を提供するには、知的好奇心を刺激する工夫が不可欠です。ここでは、参加者の満足度が高いおすすめの企画を紹介します。
チャンバラ合戦は、スポンジ製の安全な刀を使い、腕に取り付けたボールを落とし合う、チーム対抗型のアクティビティです。戦いの前には、チームで作戦を立てる「軍議」の時間が設けられており、どう攻めるか、誰を守るかといった戦略的な駆け引きも楽しめます。
ルールが非常に簡単で、言葉が通じなくてもすぐに理解できる点が魅力です。国籍や年齢、性別に関係なく誰でも参加しやすく、自然と一体感が生まれます。日本文化を象徴する侍をテーマにしながら、安全に盛り上がれる体験として、インバウンドイベントにおすすめです。
戦国運動会は、大俵を協力しながら転がして時間を競う「大俵転がし」や、兵糧をカゴに入れる「玉入れなど、日本の運動会に戦国のテーマを取り入れたチーム対抗イベントです。競技前にはチームで作戦を立てる軍議の時間があり、コミュニケーションをとりながら一体感を高めていきます。
力や速さといった運動能力だけでなく、チームワークや戦略も試されるため、運動が得意でない人でもヒーローになれる可能性があります。誰もが楽しめるよう工夫されている点がおすすめのポイントです。
着物・浴衣の着付け体験は、色鮮やかな着物や浴衣の中から、帯や髪飾り、巾着といった小物も含めて自分好みの組み合わせを選び、専門スタッフに着付けてもらう体験です。簡単なヘアセットが含まれていることも多く、手ぶらで気軽に参加できます。
男性や子ども向けの着物も充実しており、カップルやファミリーで参加することも可能です。着物姿で歴史的な街並みを歩いたり、記念写真を撮ったりすることで、非日常的な体験を味わえます。SNS映えする写真が撮れることからも、多くの訪日客に選ばれています。
屋形船の乗船は、日本の伝統文化である木造船に乗り込み、揚げたての天ぷらや新鮮な刺身といった和食を味わいながら、水上から街並みや夜景を楽しむ体験です。貸し切りだけでなく、乗合プランもあるため、他の旅行者との新たな出会いの場となる可能性も秘めています。
日本の美しい四季と、美味しい和食を同時に堪能できるという、非常に贅沢な時間を提供できます。特に、桜や花火、紅葉のシーズンは格別で、陸上からの観光とは異なる視点から、日本の風情を深く感じられることも、この企画の醍醐味です。
忍者体験は、忍者の衣装に着替え、城壁に見立てた壁を登ったり、隠れ身の術で気配を消したりと、忍者の基本的な忍者修行を体験できる企画です。中には、任務をこなしながら進めるストーリー仕立ての施設もあり、ゲーム感覚で楽しめます。
アニメや映画の影響で忍者は世界的に知名度が高く、忍者体験はインバウンドイベントの企画におすすめです。憧れの忍者になりきって、敏捷性や集中力を試すエンターテインメント性が、特にファミリー層や若者グループに人気があります。
食品サンプル作りは、本物そっくりの天ぷらやパフェ、お寿司などの食品サンプルを、蝋や樹脂を使って自分の手で作る体験です。専門のスタッフが着色や形の整え方などを教えてくれるため、初めてでも楽しく挑戦できます。
日本の精巧なものづくり技術を手軽に体験できる点が特徴です。子どもから大人まで創造性を刺激する体験として高く評価されています。完成した食品サンプルはお土産として持ち帰れる点も喜ばれるポイントです。
寿司握り体験では、プロの寿司職人から酢飯の扱い方や握る技術などを直接教わり、自分で握った寿司をその場で味わえます。お店によっては、カウンター内で寿司職人から指導を受けられるプランもあり、本物の職人になったかのような体験を味わえます。
日本の代表的な料理である寿司を、ただ食べるだけでなく、その背景にある文化や技術まで深く学べるのが大きな魅力です。見る、知る、作る、食べる、話すという体験は、訪日客にとって満足度の高い、記憶に残る思い出となるでしょう。
歌舞伎体験では、実際の鑑賞に加え、歌舞伎役者の化粧法「隈取」を自分の顔に施したり、基本的な所作を教わったりできます。400年以上の歴史を持つ日本の伝統芸能の、独特の世界観を体験できるのが魅力です。
また、歌舞伎の演舞の鑑賞も、歌舞伎体験に含まれています。近年は、多言語対応のイヤホンガイドを用意している劇場も多く、ストーリーを理解しながら鑑賞できるようになりました。自ら体を動かして文化に触れながら、知的好奇心を満たせる体験として、訪日客に喜ばれています。
陶芸体験は、粘土をこね、ろくろや手びねりで、茶碗や湯呑みなどを成形し、自分だけの器を作る体験です。成形後に焼き上がりの色を決める釉薬(うわぐすり)を選ぶのも、楽しみのひとつです。焼き上がった作品は、後日指定の住所へ届けられます。
土に触れ、無心で形作っていく過程は、日本の侘び寂びや禅の心を感じられるひとときです。自分で作った作品は世界に一つだけの器であり、日常生活でも実際に使えるため、旅行の記念品におすすめです。
書道体験は、墨をすり、筆を使って好きな漢字や言葉を和紙に書く体験です。参加者は、基本的な筆の持ち方に加えて、書道の文化や心構えなどについても知ることができます。完成した作品はそのままお土産として持ち帰れて、額縁に入れて飾れば芸術作品としても楽しめます。
書道体験は、静かな空間で精神を集中させて自分と向き合う時間としても、人気を集めています。参加者の名前を漢字の当て字で書いてもらえば、漢字そのものへの関心を深めるきっかけにもなるでしょう。
日本酒の試飲体験は、酒蔵や日本酒バルなどで、様々な種類の日本酒を少しずつ飲み比べる企画です。純米酒、吟醸酒といった種類の違いや、冷酒、熱燗といった温度による味や香りの変化も体験できます。
世界的に評価が高まっている日本酒の奥深い世界を、効率よく知る機会であり、多種多様な銘柄から自分好みの味を見つける喜びもあります。さらに、日本食との相性を知ることができれば、滞在中の食事がさらに楽しいものとなるでしょう。
和菓子作り体験では、季節の花や風景をかたどった美しい「練り切り」など、日本の伝統的な和菓子を自分で作る体験です。具体的には、餡を丸めたり、三角棒などの専門道具を使って繊細な細工を施したりします。
作った和菓子はその場で味わえることが多く、見た目の美しさと味の両方を楽しめます。和菓子の繊細な美しさと、日本の四季を大切にする文化を五感で感じられるのが魅力です。
金魚すくいは、ポイと呼ばれる薄い紙を張った道具を使い、水槽で泳ぐ金魚をすくい上げる企画です。この体験を通じて、日本の「祭り」の文化に気軽に触れることができます。簡単そうに見えて非常に奥深く、集中力と繊細な手元の動きが求められるのが特徴です。
たとえ金魚を一匹もすくえなくても、お店の人が声をかけてくれるなど、温かいやり取りが旅のよい思い出となるでしょう。イベント会場の一角でも手軽に実施しやすい企画です。
芸者体験は、白塗りの化粧、着物、かつらなどの本格的な装いに身を包み、芸者の姿に変身する体験です。芸者は、日本の伝統的なおもてなし文化を象徴する存在であり、訪日客にとって憧れの対象であることも少なくありません。
プロのカメラマンによる写真撮影が含まれたプランもあり、その瞬間を写真に残すことで、旅の記念としても楽しめます。変身後の姿はインパクト絶大で、一生の思い出に残る特別な体験となるでしょう。
アニメの聖地巡礼ツアーは、日本のアニメや漫画の舞台となった実在の場所を、作品の解説を交えながらガイドと共に巡るツアーです。踏切や坂道、神社など、作品の中に登場した場所を実際に訪れることで、作品の世界に入り込んだような感覚を味わえます。
ファンにとって特別な場所である聖地を直接訪れられることに加え、その地域でしか手に入らない限定グッズの存在も、魅力のひとつとなっています。
農業体験は、田植えや稲刈り、季節の野菜や果物の収穫など、日本の農家の暮らしの一部を体験する企画です。地域によっては、収穫したての新鮮な食材を使って、その土地の郷土料理を一緒に作ることもできます。民家への宿泊とセットになったプランも人気です。
東京や大阪といった都市とは異なる、日本の美しい田園風景や、ゆったりとした時間の中で過ごせるのが魅力です。日本の食がどのような過程で作られるのかを知り、農家の人々と直接交流する体験は、日本の文化を理解する貴重な機会となります。
どれほど魅力的な内容であっても、ただインバウンドイベントを実施するだけでは成功に結びつきません。企画の検討から集客、そして当日の運営まで、戦略的な視点と綿密な準備が不可欠です。ここでは、イベントを成功に導くために特に重要なポイント2つを解説します。
インバウンドイベントのターゲットが曖昧なままでは、企画の方向性も発信内容が定まらず、誰の心にも響かない結果になりがちです。
インバウンドイベントの内容を検討する際は、以下の項目を具体的に設定しましょう。
例えば、「日本のカワイイ文化やスイーツに興味がある20代の女性」と設定すれば、企画内容は「着物で和菓子作り体験&レトロカフェ巡り」といった具体的なものになります。
ターゲットを深く理解することで、アピールすべき企画の魅力も明らかとなり、後の宣伝活動も効果的に行うことが可能です。
素晴らしいイベントを企画しても、ターゲットとなる訪日客にその存在を知ってもらえなければ、参加にはつながりません。日本国内で有効な宣伝手法が、海外で通用しないこともあるため、発信方法には工夫が必要です。
【主な宣伝手法】
宣伝手法 | 特徴・メリット |
オンライン旅行代理店の活用 |
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SNSでの発信 |
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海外のインフルエンサーへ依頼 |
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公的機関との連携 |
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どの方法も単体で完結させるのではなく、ターゲットやイベントの特性に合わせて、組み合わせることがおすすめです。
本記事では、インバウンドイベントの概要から、注目される背景、実施するメリット・デメリット、具体的な企画例、そして成功のポイントまでを網羅的に解説しました。訪日客が増加し、需要が「体験」を重視する「コト消費」へと変化する今、参加者の心に深く刻まれる体験を提供するインバウンドイベントは、ビジネスや地域活性化の強力な武器となります。
チャンバラ合戦のような実際に体を動かす企画から、書道や和菓子作りのような文化体験まで、企画のアイデアは豊富です。大切なのは、誰に届けたいのかという「ターゲット設定」と、彼らに情報を届ける「効果的な宣伝戦略」にあります。
文化や宗教、言語への配慮など、乗り越えるべき課題もありますが、それ以上に大きなメリットが期待できるのがインバウンドイベントの魅力です。本記事の内容を参考に、ぜひあなたならではの、訪日客を魅了する素晴らしいイベントを企画・実現してください。
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